ブレーキング中のライン変更は何がいけないの?その危険性とは

2024年F1オーストリアGP、レッドブルリンクにおいて、マックス・フェルスタッペンとランド・ノリスの激しいバトルが繰り広げられました。

過去3連覇の絶対王者フェルスタッペンと、2024年F1マイアミGPで悲願の初優勝を果たし、勢いに乗るノリスの一騎打ち。

まさに2024年の前半戦を総括するかのようなレース展開・・・

でしたが、最終的にはフェルスタッペンがアウト側のノリスと接触するかたちで両車パンク。

フェルスタッペンはピットに戻り、その後5位でフィニッシュできたものの、ノリスはフロアのダメージが大きく無念のリタイヤという結果に。

接触の前にも、ターン3でインを挿したノリスがオーバーシュートするような光景も2回ほど見られましたが、いずれもノリスは「ブレーキング中に進路変更された」と主張しました。

 

恐らく最後の接触については、フェルスタッペンがブレーキング中にラインを変えたことが接触につながった、という見解に異論を唱える人は少ないでしょう(ノリスに避ける余地がなかったかどうかは別として)

実際に、この接触についてはフェルスタッペンに10秒のタイムペナルティと2点のペナルティポイントが科されています。

 

では、その数週前、59週目と63週目のノリスの2回のオーバーシュートについてはどうでしょうか。

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※問題のシーンはF1公式のハイライト動画(YouTube)からもチェックできます

「最後は確かにフェルスタッペンが悪かったけど、その前に2回もミサイル気味にオーバーシュートしたノリスも悪かったんじゃないの?接触してないからペナルティが出てないだけでしょ?」

そんなふうに考える人もいるかもしれませんね。

もしそうであれば、ぜひこの記事を最後まで読んで、そのうえで改めて映像をチェックしてみてください。

実はこれらについても、フェルスタッペンのブレーキング中のライン変更が原因であった可能性があるんです。

 

ブレーキング中の進路変更の危険性

ブレーキング中の進路変更が及ぼす影響というのは、実際のところかなり複雑かつ複合的です。

しかし、ここではよりシンプルに説明するために、その危険性を大きく2つに分けて考えてみたいと思います。

 

危険性1.接触の可能性

実に低レベルなところからお話しすると、ブレーキング中のライン変更は、自車をオーバーテイクしようとしている車と接触するリスクをはらんでいます。

もちろん、ミラーをしっかりと見れていればこういったことは起こりにくいのですが、距離感を誤ったり、相手のラインが残らないようなフタの仕方をすれば、接触のリスクは高まります。

そもそも、ブレーキング中は多大な集中力が求められます。

先のオーストリアGPでは、2台が接触した後にメルセデスのトト・ヴォルフがブレーキング中のジョージ・ラッセルに「勝てるぞ!」という無線を飛ばし、ラッセルから「運転中だ!」と怒り気味に反応されるシーンがありました。

単独で走行していても、それほどの集中力がブレーキングには求められます。

そんな中、前走車が想定外の動きをしては、判断と対応が遅れてしまう可能性があります。

仮にそれが実際は接触につながる動きでなかったとしても、想定外の動きによって集中力を乱されれば、シンプルにコーナーリングでミスをしてしまう可能性も高まります。

 

危険性2.相手の行き場がなくなる可能性

先ほど少し触れましたが、相手のラインが残らないような進路変更をした場合、当然追突の危険があります。

そこまでいかなくても、相手がイン側に飛び込んでオーバーテイクを狙う場合は要注意。

突っ込み勝負で相手はインを挿しつつ、なんとかスピードを落として旋回できるような、限界ギリギリのブレーキングを開始します。

そんな限界ギリギリのブレーキングを始めたあとに、前の車がラインを変更したらどうなるでしょう。

オーバーテイクを仕掛けた車は更にインに進路変更せざるを得なくなりますよね。

さらにインに寄るということは、さらにコーナリングがタイトになるということです。

つまり、もっとスピードを落とさないと曲がってくれないということ。

結果的に、限界ギリギリのブレーキングでも減速が足りなくなってしまうんですよね。

例えば、本来であれば100km/hまで落とせば曲がれるラインでも、さらにインに寄る場合は80km/hまで落とさないと曲がれないということもあるでしょう。

しかし、ギリギリ100km/hまで落とすようなブレーキングを開始したあとは、さらに20km/hも速度を落とす手段は残されていないわけです。

重ね重ね言いますが、減速が足りずにコーナーに差し掛かれば、当然曲がり切ることはできません。

そして、曲がれないということはまっすぐ行くしかないわけで、結果として冒頭のノリスのようなオーバーシュート気味な動きとならざるを得ず、ラインを変えた前走車がそれを理解できていないと、また接触の可能性があるわけです。

しかもこのかたちで接触が起こると、いや起こらなかったとしても、一見するとオーバーテイクを仕掛けた側の動きが「ミサイル気味に無理やりインに飛び込んだ」と映るんですよね。

そして前走車はそれを主張しやすい。

しかし、後続車からすれば前走車の動きは「ぶつかりたくなかったら避けろ」くらいの強引なブロックに映るわけで、避けたら避けたでブレーキが足りないわけです。

これではコーナー入口のブレーキング勝負が成り立たなくなってしまいます。

なので、「ブレーキング中の進路変更は危険だよね、フェアじゃないよね」っていう話になるわけです。

 

余談ですが、もしかするとノリスはコース内に留まることもできたかもしれません。ただ、どうせ立ち上がりで抜き返されるのであれば、無理にロックアップさせてまでコース内に留まろうとするより、いっそタイヤをいたわってオーバーシュートした方がいい・・・。そんな考えがよぎった可能性もあるかもしれませんね。

 

ブレーキング中の進路変更の危険性│まとめ

最後に補足しておきますが、冒頭のフェルスタッペンとノリスのバトル、今回は説明しやすそうな実例と思ったので取り上げましたが、個人的には双方にそれほど大きな問題があったとは思っていません。

もちろん、ブレーキ開始後のライン変更は今回説明したような危険を伴いますが、ただ冒頭のフェルスタッペンとノリスのバトルについては、ノリスもインを挿すにはやや距離があったし、最後の接触もまだ左側に縁石が残っていましたから、ノリスも避けることはできたはずです。

しかも、レース翌日には両者は話し合い、お互いに納得しているとのことですから、外野がこれについてとやかく言うのは本来であれば野暮というもの。

ノリスがコメントしていたとおり、接触自体は些細なものでしたし、あの程度の接触としては最悪の結果だったと言える、それだけのことなのかもしれません。

とはいえ、本人同士が納得していればそれでいいかというと個人的にはそうでない側面もあるだろうと感じます。

 

遡ると、実は2016年にも、フェルスタッペンを筆頭に若手ドライバーたちのブレーキング中の進路変更が多いと話題になったことがありました。

この際、「ブレーキング時に進路変更を行うことは認めない」という旨が競技規則に追記されています。

もう少し具体的に言うと、「他のドライバーに回避行動を強いるようなブレーキング時の進路変更(方向転換)は、いかなる場合も異常と見なされる」といった内容です。

このブレーキング時の進路変更は、2021年にフェルスタッペンとルイス・ハミルトンがチャンピオンシップを争った際にも度々話題に上がりました。

 

実際に今回はフェルスタッペンにペナルティが科せられており、やはりブレーキング中の進路変更が危険であること、フェアではないという風潮はあるように感じます。

それでもこれまではあまり明確に、厳しく取り締まわれていない印象を受けますが、今後どうなっていくのか、そういった点も注視しながら、フェルスタッペンとノリス、二人のバトルを楽しんでいきたいと思います。

今回のようにリタイヤにつながるような接触は見たくありませんが、クリーンでバチバチなバトルを期待したいですね。