2026年シーズンの最終戦、ヤス・マリーナで行われた予選は、タイトル争いを一層混迷とさせる結果となった。
そんな中、既に一部のファンの間では「フェルスタッペンのタイトル獲得に、角田裕毅がどれだけ貢献できるか」が大きな話題になっている。
近年まれに見る三つ巴と最終戦での決着
まず前提条件からおさらい。
現在ポイントリーダーのランド・ノリスが408pt、マックス・フェルスタッペンが396pt、オスカー・ピアストリが392ptという、まれに見る三つ巴の構図で、最終戦でタイトルが決まるのは2021年以来4年ぶり。
予選でポールに立ったのはフェルスタッペン、続いて2番手がポイントリーダーのノリス、3番手が中盤戦まで無類の強さを発揮したピアストリ。
ジョージ・ラッセルが4番手、シャルル・ルクレールが5番手、フェルナンド・アロンソが6番手と続き、予選でもチームプレーを見せた角田は10番手スタート。
配点は1位25pt、2位18pt、3位15pt、4位12pt・・・。
まず、最も単純で現実味の高い結論から言えば、ノリスには「安全に3位を取るだけでタイトル確定」という非常に明快な条件がある。
一方で、フェルスタッペンはポールスタートを生かして確実に“勝ちに行く”戦術を採れる立場にあるが、単に優勝してもノリスが3位以上ではワールドチャンピオンには届かない。
この条件が今回のレース戦略に強烈な制約を与えている。
角田裕毅の役割と“支援”の現実性
この決勝を読み解く鍵は、意外にも「フェルスタッペンがどれだけ“抑えて走るか”」にある。
先述の通り、普段のように後続を一気に突き放す走り方では、今回のタイトル構造にそぐわない。
能動的にノリスを4位以下に落とすためには、マクラーレン勢を“戦略的に揺さぶる状況”が必要になる。
まず注目すべきは、4番手のラッセルと、続くルクレール、アロンソらの動きだ。
仮にフェルスタッペンがペースをコントロールし、彼らがコース上でマクラーレン勢をオーバーテイクすることを望んだとしても、そう容易なことではない。
DRSトレインになれば抜きにくくなることは言うまでもなく、今年のマクラーレンの速さは最終戦に至っても健在。
しかしながら、差が小さければラッセルらが「アンダーカット」を狙う可能性は高い。
もし後続が早めに動き、ピットアウト直後にクリアラップを得られれば、ノリスを実質的に“食いに行く”ことができる。
これこそが、ノリスの順位を下げるうえで最も現実的なルートだと思われる。
そして、そのアンダーカットの成功率を大きく左右するのが10番手スタートの角田裕毅だ。
仮にフェルスタッペンがうまくペースをコントロールした場合、先頭集団であってもピットアウト後に角田より後方に出ることは十分に起こり得る。
アンダーカットを狙うラッセルらが戻ってきた際、角田が適切に位置を譲れば、ノリスに対するアンダーカットの破壊力を最大化できる。
逆にノリスに対しては最大限ブロックすればよく、角田がほんの数周抑えるだけでも順位変動に大きな影響を及ぼしうる。
そして、この事実自体がマクラーレンに対する戦略上の制限となる。
単純に言えば、マクラーレン勢はアンダーカットのためや、アンダーカットを防止するための早期ピットインをしかけにくくなる。
つまり今回、そもそも角田は10番手にいるだけで、既に戦略的に意味があるといえる。
ただし、この構図は単純には機能しない可能性もある。
一つめは、フェルスタッペンが先頭で差を広げすぎてしまうことだ。
もしフェルスタッペンがいつも通り後続を突き放してしまえば、先頭と2位集団、そして中団との間隔が広がり、ラッセルらのアンダーカットも角田の位置取りも効果を失う。
ノリスはリスクを負わず3位圏内に留まりやすくなり、逆転の可能性は低くなる。
二つめは、ピットアウト後に集団に巻き込まれることが明白であれば、いくらラッセルやルクレールでも早期にアンダーカットを狙うという決断に至らない可能性がある点。
とはいえ、いつまでもピットインを先延ばしにするわけにはいかないため、十分に可能性はあるとは思うが、そのまま周回数が重なると、いつものように”アロンソトレイン”が発生し、ピットアウト後のマクラーレン勢が角田の前で出てしまう可能性もある。
三つめは、セフティーカーやバーチャルセーフティーカーが入るとアンダーカットが有効になるが、角田がマクラーレン勢の前に残れる可能性が低くなるということ。
このため、最後のレース、角田も果敢にオーバーテイクを狙っていくことで、作戦の成功率と抑止力を向上させることが可能となる。
さらに言えば、タイヤ戦略(どのタイヤでスタートするか)などによっても、そもそもこの作戦に望みを持てず、序盤からフェルスタッペンが後続を引き離すという展開も十分にあり得る。
ピアストリ逆転優勝への危険な筋書きとノリスの強みと弱み
一方で、タイトル争いの裏側には、もう一つの危険な筋書きも潜む。
フェルスタッペンとノリスは(というかフェルスタッペンは誰相手にでもだが)、過去に何度も一触即発の攻防を繰り広げており、今回も状況次第では競り合いが激化する可能性がある。
もし二人が接触やトラブルで共倒れとなれば、ピアストリが勝利して逆転王者になるシナリオも理論上は十分に残っている。
しかし繰り返すが、ノリスはリスクを負わずに3位圏を守るだけでタイトルを確定できるという強みを持つ。
ノリスにとって“3位で王者”という明確な安全ラインが存在するため、彼は無理に攻める必要がない。
とはいえ、これはポイントリーダーの強みであり、同時に弱みでもある。
2021年最終戦を思い出してほしい。
フェルスタッペンとルイス・ハミルトンは小数点以下まで同点というF1史上に残る接戦で最終戦を迎えはしたが、両者リタイヤとなった場合、優勝回数で勝るフェルスタッペンの初タイトルが確定するという状況であった。
当然ハミルトンは無理なバトルができないし、この事実は、やはりピット後のハミルトンを抑えたセルジオ・ペレスの助けにもなった。
この点につけ入ることができれば、少なくともピアストリがノリスの前に出る可能性は十分にあり得る。
それ以上にフェルスタッペンを抜くのは難しいとは思うが、フェルスタッペンにしてもノリスが3位に留まっていてはワールドチャンピオンになれず、後続を引き離すわけにはいかない。
あまり考えたくはないが、フェルスタッペン、ピアストリが2位または3位、ノリスが4位なんていう状況になったら、マクラーレンはピアストリのペースダウンを指示するだろうか。
さらに言えば、フェルスタッペンがペースをコントロールするとわかった瞬間、ピアストリがさらに後続のペースをコントロールする可能性もあるかもしれない。
最後の最後でチームオーダーが発動する可能性も十分に残されている。
いや、ペースを落とすにも限界があるだろうから、そうなったらフェルスタッペンもさらにペースを落とせばいいのかな?うーん・・・
少なくともフェルスタッペンが最初から飛ばしたら、ピアストリが後続を抑える作戦は最大限効果を発揮しそうだ。
レッドブル2台の“抑制”は機能するか!?
アブダビ最終戦は単純な速さ比べでは終わらず、都度戦略の変わる複雑なレースになることは間違いないだろう。
フェルスタッペンの繊細なペースコントロール、マクラーレン勢の計算されたリスク管理、ラッセルらのアンダーカット、そして角田裕毅の抑止力・・・
これらすべてが絡み合って、わずかなほころびが王者の座を決する。
今年のアブダビは、戦略性というF1の競技そのものの奥深さを示す一戦となるのではないか。
余談だが、日本ではDAZNでのF1配信が、最低でも今後数年なくなることが発表された。
F1DAZNの見やすさ、わかりやすく明るい実況が好きだったので、そういったところもかみしめながら、最終戦を楽しみたいと思う。
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