デフは旋回性を向上させるための装置?じゃあLSDの目的と効果は?

Differential_gear_001 車の構造

車がコーナーを旋回するとき、内側のタイヤより外側のタイヤの方が長い距離を動くことになります。

例えば車イスを想像してみてください。

左右のタイヤを同じだけ回したら、いつまで経っても曲がることができませんよね。

スムーズに曲がるためには、内側のタイヤの回転を少なく、外側のタイヤの回転を多くしてあげる必要があります。

これはタイヤが4つある自動車でも言えることなんです。

そこで用いられるのが「デファレンシャルギア(デフ)」という装置(機構)。

このデファレンシャルギアによって、エンジンからの駆動力を左右の駆動輪に適切に配分することが可能となります。

結果、左右の回転差は吸収され、内側のタイヤを少なく、外側のタイヤを多く回すことが可能となり、スムーズな旋回を実現しています。

ちなみに、駆動輪ではないタイヤはもともと左右で独立しており、かつ地面の抵抗に合わせて必要な分だけ回転するため、デファレンシャルギアを必要としません。

 

しかし、詳細は後述しますが、このデファレンシャルギアにも欠点はあります。

その欠点を解消するのが「LSD」と呼ばれる装置です。

 

「LSD」とは│デファレンシャルギアの欠点を補う装置

トヨタ 86 トルセン®LSD(リミテッド・スリップ・デフ)

引用元:トヨタ 86│燃費・走行性能│トヨタ自動車WEBサイト

LSDとはLimited Slip Differential(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)の略。

差動制限装置とも呼ばれるもので、簡単に言えば「デファレンシャルギアの機能を制限する機構及び装置」のこと。

ちなみにLSDのことを「デフ」と呼ぶのは一般的ですが、正しくはデフといったらデファレンシャルギアのことを指します。ちょっとややこしいですね。

 

先述の通り、デファレンシャルギヤとは左右のタイヤの回転差をなくすことで、スムーズな旋回を可能とする機構です。

これだけ聞くと絶対あった方がいいと思いますよね。

しかし、この回転差を吸収するときに駆動力(車が前に進もうとする力)のロスが生じてしまいます。

これがデファレンシャルギアの欠点。

車が旋回するとき、内側のタイヤより外側のタイヤの方が回ってくれないとスムーズに旋回できませんよね。

このとき、「外側のタイヤは地面との抵抗が小さく、内側のタイヤの方が抵抗が大きい」ということはなんとなくイメージできるでしょうか。

実は、デファレンシャルギアは「より抵抗が少ないタイヤへ駆動力を配分するシステム」なんです。

「より回しやすい方のタイヤを多く回すシステム」と言い換えてもOK。

 

例えば、高い速度でコーナリングしているときは遠心力で内側のタイヤの接地圧(グリップ)が低下します。

加えて、内外輪の通る距離とそれによる抵抗の違いから内側のタイヤはスリップしやすいわけですが、内側のタイヤがスリップしようとすると、駆動力のほとんどはその内側のタイヤに配分されてしまいます。

外側のタイヤにはまだグリップに余裕があるにもかかわらず、です。

せっかく前に進むための余力があるのに、前に進もうとしないんです。

これって“もったいない”ですよね。

トラクションが制限されるという点は、スポーツ走行においてはかなり致命的なデメリット。

せっかくの前に進もうとする力を捨てているにも等しい状態です。

 

であれば、デファレンシャルギアの作動を止めてしまう、いわゆるデフロックではどうかというと、今度は車の旋回性が著しく悪化してしまい、特に街中のような低速走行時はかなりのストレスになります。

そもそも旋回性を向上させるためのデファレンシャルギアでしたが、車を最大限前に進めたい場面では“やりすぎ”となり、かといってロックしてしまうのも旋回性が悪く、“やりすぎ”なんです。

 

この欠点を解消するのがLSD。

“条件付きで”デファレンシャルギアの機能を制限することが可能で、仮に駆動輪の片方がスリップしても、スリップしていない方にも駆動力を伝えることが可能となり、駆動力のロスを最小限に抑えることができます。

LSDは純正やメーカーオプションでも装備されていることがありますが、その多くはヘリカルやビスカス、トルセンといった方式で、効きがマイルドなものが多いです。

これに対し機械式LSDは効きが強く、スポーツ走行においては初心者でもハッキリと違いがわかるほど。

十分に交換を検討する価値があると言えます。

 

LSDは作動するタイミングで大きく次の3パターンに分けられます。

  • 1WAYタイプ
  • 2WAYタイプ
  • 1.5WAYタイプ

これらの詳細は別記事にまとめる予定です。

 

LSDがもたらすメリット

LSD 02

LSDはかゆいところに手が届く種の装置ですが、敢えてそのメリットを文字に起こせば、次の4つが目立ちます。

  1. 悪路に強い
  2. ブレーキが安定しやすい
  3. コーナリング速度の向上
  4. ドリフトコントロールが容易になる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

メリット1.悪路に強い

LSDの開発経緯から見ても、これは無視できません。

というか、「悪路に弱いのがデファレンシャルギアのデメリットであり、それをLSDなら解消できる。」と言った方が正確ですね。

先述の通り、デファレンシャルギアが作動するとトラクションのかからなくなった駆動輪に駆動力が集中することになります。

これは悪路においては致命的な欠点なんですよね。

どういうことかというと、例えば駆動輪の片一方がぬかるみにハマってしまった場合。

デファレンシャルギヤの効果で、駆動力のほとんどはスリップしたタイヤ(ぬかるみにハマっているタイヤ)に集中してしまいます。

もう片方のタイヤがしっかりと地面をグリップしていたとしても、です。

これではいつまで経ってもぬかるみから脱出することはできません。

しかし、LSDが効いてデファレンシャルギアの働きが制限されれば、スリップしていない方のタイヤにも駆動力が配分され、無事ぬかるみから脱出することができるというわけです。

 

ちなみに、4WDの場合は前2輪と後ろ2輪の間に「センターデフ」と呼ばれるもう一つのデファレンシャルギアが搭載されていますが、この働きを制限する「センターデフロック機構」や、「センターデフ用のLSD」を搭載し、更に悪路走破性を向上させた車も多いですね。

 

メリット2.ブレーキが安定しやすい

これは減速時に作動するLSD(2WAY or 1.5WAY)であることが条件ですが、効果は絶大です。

LSDが効いた場合、デファレンシャルギアの働きは軽減され、左右のタイヤが同じ分だけ回転しようとします。

左右の回転差がないためまっすぐ進みやすい状態、すなわち、左右にぶれにくい安定した状態というわけです。

逆に、フルブレーキングの際左右のタイヤの回転数がちょっとでもずれるとしたら、それがどれだけナイーブな状態かは想像に難くありませんね。

 

コーナー進入時のブレーキングはコーナリングの全工程において最も重要なプロセスと言っても過言ではありません。

そのブレーキが安定するのですから、多少曲がりにくさが出たとしても、これはメリットと言って良いでしょう。

 

メリット3.コーナリング速度の向上

個人的にはこれが最大のメリットだと思います。

デファレンシャルギアが機能すると、先述のとおり片一方のタイヤがスリップしようとすると、前進するための十分なトラクションを得ることができなくなります。

しかし、LSDが効いていれば、残ったもう一つのタイヤで無理やり車を前に押し出すことができるわけです。

そうなれば、当然コーナリング速度は向上します。

 

特筆すべきはコーナー脱出時。

全駆動輪がしっかり回ろうとしますから、LSDなしの場合と比べて明らかに安定感があり、かつトラクションのロスもなくしっかり前に進みます。

いくらLSDを入れると曲がりにくくなるとは言っても、立ち上がりのアンダーステアはアクセルオンのタイミングや踏み込む量で調整もしやすく、容易に慣れることができるはずです。

それでも特に後輪駆動車の場合はLSDなしの場合と比べて繊細なアクセルワークが求められるため、最初は度胸と練習が必要ですが、やはり慣れてしまえば圧倒的に速いですね。

 

メリット4.ドリフトコントロールが容易になる

LSDがない車で駆動輪のどちらかが滑ると、滑った方のタイヤに駆動力が集中し、もう一方のタイヤはずっとグリップしたままです。

このため、旋回中にタイヤを過剰に回して敢えて両輪をスリップさせるドリフト走行には不向きなんですよね。

対して、LSDが効いていると一方のタイヤがスリップしたあともグリップしているタイヤに更なるトラクションをかけることができるため、そのままさらにアクセルを踏み込めばグリップしているタイヤもブレイク(スリップ)させる事が可能です。

 

しかし、タイヤをブレイクさせる方法はアクセルオンだけじゃありませんね。

 

そう、実はLSDが入っていなくてもドリフトはできます。

しかし、デファレンシャルギアは常に抵抗の大きな方のタイヤから駆動力を抜こうとしていますから、どうしてもアクセルオンでスリップ状態を維持するのが難しく、ほとんどの場合一瞬で終わってしまいます。

しかも、グリップが回復した瞬間に一気に挙動を乱す恐れすらあります(LSDが入っていてもリスクはありますが、入っていない方がグリップが回復しやすく、そのタイミングをつかむのも困難です)

 

LSDはグリップ走行でもドリフト走行でも大きなメリットが得られるというわけですね。

 

LSDのデメリット

もちろんデメリットもあって、パッと思いつくだけでも次の3つが挙げられます。

  1. 旋回性が悪くなる
  2. タイヤが摩耗しやすくなる
  3. 高価

 

デメリット1.旋回性が悪くなる

これは「曲がりやすくするためのデファレンシャルギアの働きを制限する」のですから当然ですね。

アクセルオフやオンでデファレンシャルギアの効果が制限されると、外側のタイヤと内側のタイヤが同じ距離を進もうとするため、曲がる際の抵抗が大きくなってしまいます(実際は5:5の同じ距離ではなく、6:4、7:3といったかたちで制限されますが)

特に内輪がスリップしにくい極低速走行時の違いは大きく、最小回転半径も大きくなってしまう可能性があります。

まぁ後輪駆動の場合はアクセルターンで向きを変えるといった荒業もやりやすくなるのですが・・・(公道では意図的にやらないように)

 

スポーツ走行時は先述の通り「前に進もうとする力」を強く活かすことができるようになるため、トータルでは速くなる場合がほとんどですが、初心者はアンダーステア傾向になる点に注意が必要かもしれません。

 

デメリット2.タイヤが摩耗しやすくなる

LSDが効いている間は、極端に言えば内側のタイヤも外側のタイヤもほぼ同じだけ回転しようとしている状態です。

ですが、実際に旋回すると、内側のタイヤと外側のタイヤが通る距離は異なるわけですから、どちらかのタイヤが路面との間でスリップすることになります。

普通は内側のタイヤが過剰に回る形でスリップしますね。

こうなると、当然タイヤは地面との摩擦で少しずつ削られ、消耗が激しくなります。

交差点で極低速なのにいちいち「キキキッ」とタイヤを鳴らして曲がる車がいれば、それはイキっているのではなく、そういう仕様な車なのだと暖かい目で見てあげてください。

タイヤは安物かもしれませんが・・・(ある程度以上のタイヤになると、キキキッではなくズザザザッ、スサササーといった音になります)

逆にハイグリップなタイヤを装着している場合は、駆動系や足回りに通常よりも負担がかかる可能性も考えられます(大きな問題になることはそうそうないはずですが)

 

デメリット3.LSDは高価

これが多くの市販車にLSDが搭載されていない理由です。

デファレンシャルギアの欠点は悪路に弱いことと、コーナリング中に加速できなくなることの2つでしたが、これらは普通の舗装路を走る用途ではあまり問題にならないんですよね。

タイヤが滑るなんてことは極稀で、そのときのために高価なパーツは装備できないわけです。

価格競争で負けてしまいますから。

もちろん、悪路を走ることを想定した車種、スポーツ走行を想定した車種は別で、純正で装備されていることも多いですが、少し古い車やグレードによっては装備されていなかったり効きが弱かったりするので、一度見直してみる価値はあるかもしれません。

 

まとめ│LSDはスポーツ走行にも効果抜群!古い車なら一度見直してみては?

車のカスタム・チューニングにはいろいろありますが、この「LSDの装着」、特に古い車の場合は「ハイグリップタイヤの装着」、「剛性アップ」に次いで効果を実感しやすいメニューではないかと思います。

そのくらい、コーナーの乗り味が一気に変わります。

ただ、これまでアクセルべた踏みでも問題なかったコーナーも簡単にスピンするようになるので、特に後輪駆動車の場合はより繊細なアクセルワークが必須となります。

 

恐らく、LSDがちゃんと機能している車からLSDなしの車に乗り換えたら、多くの人はコーナーで全然前に進んでくれない感覚にイライラすることになると思います。

それほど、面白いくらい立ち上がりでトラクションを感じられるようになるので、LSD未体験であれば是非導入を検討してみてください♪