自動車の旋回性を向上させるための機構が「デファレンシャルギア」。
そしてその働きを制限することで悪路走破性やスピーディーなコーナリングを可能とするのが「LSD」です。
LSDには大きく分けて3つのタイプがあります。
違いはデファレンシャルギアの働きを制限するタイミング。
今回は3パターンのLSDの特徴と、駆動方式やシーンに合ったおすすめのLSDについて考察したいと思います。
LSDは作動するタイミングで大きく3パターンに分けられる
LSDとはLimited Slip Differential(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)の略で、簡単に言えば「デファレンシャルギアの機能を制限する機構及び装置」のことです。
これによって、悪路走破性やスポーツ走行におけるコーナリング速度の向上や姿勢の安定化を可能とします。
特に機械式のLSDはメーカー純正やオプション装備のヘリカルやビスカス、トルセンなどのLSDと比べて効きが強く、十分に交換を検討するだけの価値があります。
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デファレンシャルギアの働きを制限するための条件はLSDによって異なります。
この作動の条件別に、LSDは主に次の3つのタイプに分けることができます。
- 1WAYタイプ
- 2WAYタイプ
- 1.5WAYタイプ
1WAYタイプはアクセルオンでのみ効き、2WAYタイプはアクセルオンに加えてアクセルオフでも効きます。
1.5WAYもアクセルオンとアクセルオフで効きますが、アクセルオフによる効きは2WAYタイプと比べてマイルドです。
それぞれもう少しだけ詳しく解説してみますね。
1WAYタイプのLSDの特徴
1WAYタイプはアクセルオンの加速時のみデフの機能を制限するLSD。
メリットはその旋回性の高さにあります。
アクセルオフで制限が解除されるため、他のタイプとは異なりコーナー進入時の旋回性が犠牲になりません。
LSDなしの場合と同様、コーナー前半ではレコードラインをトレースしやすく、クリッピングポイントを狙うのも容易。
それでいて、コーナー脱出時は十分なトラクションを確保することが可能です。
また、街乗りにおいて大きく乗り心地が変わらない点も1WAYタイプの魅力の1つですね。
デメリットはコーナー進入時(フルブレーキング時)の安定性が他のタイプに比べてやや劣る点。
特にFRでは後輪が暴れるような感覚を覚える人もいるかもしれません(これは他のLSDと比較した場合であって、LSDがない車とは相違ありません)。
また、アクセルワーク(アクセルのオンオフ≒LSDのオンオフ)で挙動が変わりやすいため、スポーツ走行時は人によって乗りにくいと感じる可能性もあります。
1WAYタイプはFFや4WDのフロントなどに向いていますが、FRでもジムカーナなどの回頭性を重視する用途では採用されるケースが少なくありません。
2WAYタイプのLSDの特徴
2WAYタイプはアクセルオンとアクセルオフの両方のタイミングで作動するLSDです。
1WAYとの違いはアクセルオフでもデフの働きを制限し続ける点にあります。
コーナー進入時もデフが制限されるため旋回性は犠牲となり、アンダーステア傾向となります。
このため、もともとアンダーステア傾向を持つFFや4WDよりも、FR等に適しているLSDと言えるかもしれません。
しかし、旋回性が犠牲になることを補って余りある減速時の安定感を得ることができる点が最大のメリット。
特にコーナー進入時のフルブレーキングにおいては両駆動輪がしっかりと安定するため、安心して奥まで突っ込むことも可能です。
また、アクセルオン・オフでLSDの効きが大きく変化しないため挙動が安定しやすく、ドリフト走行にも向いています。
コーナリング中は終始安定感がありますが、代わりに速く走るためには「曲げるテクニック」が求められるLSDとも言えるかもしれません。
2WAYはFRで多く採用されるLSD。
FRは元々前輪が操舵、後輪が駆動の役割分担ができているため旋回性が良く、2WAYのLSDを採用しても旋回性の悪化よりメリットの方が際立ちます。
稀にFFで2WAYを選択する人もいますが、よほど高い速度で走行するような化け物マシンと優れたテクニックを持っていない限り、避けた方が無難です。
速い人はものすごく速いですけどね。FFの2WAY。
1.5WAYタイプのLSDの特徴
1WAYタイプと2WAYタイプの“良いとこ取り”のようなLSDが、この1.5WAYタイプです。
アクセルオンで十分に効き、かつアクセルオフでもマイルドに効きが残ります。
「1.5」と表記されますが、2WAYを100%としたときに50%の効きというわけではなく、実際は1.2だったり1.4だったり1.7だったりと、効き具合は様々。
つまり、限りなく1WAYに近いものから、限りなく2WAYに近いものまであるわけです。
そのため、実は「初心者はとりあえず1.5WAYを選んでおけば無難」という意見は少々乱暴かもしれません。
まぁ、実際は対応車種にマッチしたLSDを適合表などから選ぶことになるはずなので、「その車にあまりにもマッチしないLSD」を装着するようなことにはならないはずですが。
詳細な効き具合は置いておくとして、一般的には1.5WAYタイプはコーナー進入時は1WAYタイプよりは安定感があり、2WAYタイプよりは曲がる傾向にあります。
読み替えれば2WAYタイプより安定感がなく、1WAYタイプより曲がらないということでもあるわけですが、もちろん1.5WAYがベストセッティングとなる車も多いはず。
FFではやはりアクセルオフの作動は要らないという人も多いですが、挙動の安定性を求めて「アクセルオフでも効いてほしい」と感じたら2WAYではなく1.5WAYがおすすめ。
FRでも旋回性を極力犠牲にしたくないのであれば、1.5WAYを選択しても良いかもしれません。
1.5WAYのLSDはFFやFR、4WDのリアなど多数の駆動方式でパフォーマンスを発揮します。
そういう意味ではある意味万能かもしれません。
特に1WAYに極めて近いカム角をもつ1.5WAYであれば、FFで真価を発揮する可能性は大いにあります。
FFで1.5WAYを装着するとしたら、先述の通りそれはアクセルワークによる挙動変化を最小限に抑えたい場合でしょう。
減速側でもLSDが効いたままなので、コーナー中盤から出口にかけてアクセルを微調整しても挙動が乱れにくいというわけです(この辺りはドライビングスタイルにも影響されますが)。
1WAY・2WAY・1.5WAY│LSDの選び方は走り方やステージ次第
大雑把に見れば、それぞれの違いは「アクセルをオフにしてもデフの働きを制限し続けるかどうか」しかありません。
先述の通り、1WAYはブレーキング時の安定性は劣るものの、素直なハンドリングで旋回性が犠牲になりにくいという特徴を持つため、低速コーナーが連続するようなステージに向いていると言えますね。
例えば街乗りでの乗り心地を犠牲にしたくない人や、急旋回の多いジムカーナなどでひらりひらりと舞いたい人などは、FRであっても1WAYが良いかもしれません。
先述の通り「FFならとりあえず1WAY」でも失敗するリスクは小さいと言えそうです。
逆にアクセルオフでも効き続ける2WAYは、コーナー進入時の安定感に優れるため、より高い速度からフルブレーキングをかけるようなシチュエーションに適していると言えます。
高速コーナーが連続するようなステージでは、「アクセルオフで曲がること」よりも「アクセルオフでも姿勢(挙動)が安定していること」の方が重要なので、2WAYの方が向いていますね。
特にFRの場合はもともと回頭性が良いため、2WAYのLSDを採用しても「曲がれない」といったことにはほとんどなりません。
またアクセルオンオフで挙動が乱れにくいため、FRであればステアリングに加えてアクセルワークでも自在に車の向きを変えることが可能となります。
これはもちろん、派手なドリフト走行に限った話ではありません。
FFにおいては旋回性重視でインに切れ込んでタックインを狙いやすい1WAYと、よりオーソドックスなライン取りに適した1.5WAY。
FRにおいてはアクセルオフでガッツリ効く2WAYと、マイルドに効く1.5WAY。
それぞれどちらを選ぶかは車やドライビングスタイルで決めたいところですね。
ちなみに管理人はドライビングにおいては常に安定を求めたいタイプで、180SX(FR)に2WAYのLSDを入れていました。
進入時にリアが流れにくく、安心して突っ込むことができるようになったことと、立ち上がりでグングン後ろから押されるようなトラクションがかかるようになったことが印象に残っています。
ただ、初めのうちはどのLSDを採用しても繊細なアクセルワークにかなり神経を使うことになるはず。
ノーマルのつもりでラフに踏み込むとあっという間にテールが流れ出しますから(もともとが雑すぎたってことですね)。
機械式LSDを導入したら一度ドリフトの練習をして、タイヤが滑る感覚をつかんでおくのもいいかもしれません。
あとがき│どのタイプのLSDを入れてもノーマルとは劇的に変わる!
今回は3タイプのLSDについて、おすすめの駆動方式やシチュエーションをまとめてみました。
プロのレーサーやメカニックに言わせたらこんなに単純な話ではないかもしれませんが、アマチュアであれば後は自分の好みで決めてOK。
とにかく、LSDなしの車に乗っているなら、どれでもいいから是非LSDを導入してみましょう。
立ち上がりの違いにきっと驚くはずですよ。