昔の車と見比べると、最新の車はそのボディ形状の複雑さが際立ちますよね。
特にCAD(設計支援ツール)が一般化する前と後では大きく形状が異なります。
流線的なボディは設計が難しかったんですね。
さて、流線的なボディが設計できるようになると、車のデザインはどんどんと複雑になり、特に昨今は市販車にもエアロダイナミクスを意識させる装備が次々と実装されました。
純正リアスポイラーのような派手なパーツは見た目だけと言われますが、本当にそうでしょうか?
実は一般にはあまり知られていないパーツも、整流効果を狙ったパーツだったりします。
これはつまり、空気の流れを整えることでメリットを得ることができるということを意味しています。
整流の効果とは?
整流とは、車を取り巻く空気の流れを整えてやるということです。
実際に空気を整流させることで様々な恩恵を得ることができます。
今回は整流によるメリットにはどのようなものがあるのか、どのように空気を整流させているのかをご紹介したいと思います。
整流によるメリット
先にどんな恩恵を得ることができるのか確認しちゃいましょう。
大きく分けると2つあります。
一つは走行性能の向上、もう一つは燃費性能の向上です。
しかし、実はこれらを分けて考える必要はあまりありません。
なぜなら、燃費性能が向上するということは車体にかかる抵抗が軽減されるということで、それはつまり走行性能の向上に直結することと言えるからです。
違いは、燃費性能の向上の方が実感しやすいということでしょうか。
通常、車を流線形にしたりエアロパーツを付けたりする最大の目的はダウンフォースを得るためと思われがちですが、昨今の最も求められているのは燃費性能の向上です。
実は車にぶつかった空気を上手に後方へ逃がしてやらないと、車体後方で空気の渦が幾重にも発生し、高速域で車体が安定しにくくなると同時に大きな抵抗にもなってしまいます。
つまり、車の形状やエアロパーツによって空気の流れを整えることで、この「後方乱気流」の発生を抑制することが可能になり、結果的に抵抗の軽減と車体の安定を得て、燃費性能が向上します。
車体後方の空気抵抗を軽減できるということは、一見エアロパーツを取り付けるとその分空気抵抗が増すように思えますが、場合によっては直線スピードが伸びるケースもあるというわけです。
余談になりますが、似たような現象に「バックスリップストリーム」というものがあります。
後続車がスリップストリームに入ったときに前走車の後方の空気が後続車によって整流される現象で、実は前走車の最高速度もわずかに伸びます。
極端に2台が接触しながら走行すると、出力は2台分にも関わらず空気抵抗はそこまで大きくならない(具体的には前走車は後方乱気流による抵抗がほぼなくなり、後続車は車体前方の空気抵抗がほぼなくなる)ので、更に速度を上げることが可能になります。
これはバンプドラフトと呼ばれ、NASCARなどでは歴としたテクニックの一つとして用いられます。
また、先ほど出たダウンフォースも、走行性能への影響の面で忘れるわけにはいかないでしょう。
特に車体底面の空気を整流させることによって生じる「グランドエフェクト」は公道を走行するスピード域でも十分に効果を感じることが可能です。
グランドエフェクトを得るためには、車体底面の凹凸を減らし、ディフューザーなどを設けることで車体後方へ上手に空気を逃がしてやる必要があります。
こうすることで車体の下を流れる空気の流速が上がり、ベンチュリー効果によって生じた負圧により車体が路面へ引き寄せられます。
正しく効果を得ることができればウイングなどで得ることができるダウンフォースとは比較にならず、車重の何倍にも及ぶダウンフォースを得ることができますが、効果が強烈な分、注意しなければならない点もあるので、詳しくはこちらを一読されることをおすすめします→【ダウンフォースとは?その原理、恩恵、注意点をまとめてみた!】
市販車にも搭載されている整流パーツ
先ほども触れましたが、昨今の市販車における流線形状やエアロパーツは、その多くが燃費性能の向上を狙ったものです。
そしてこれが結果的に走行性能にも影響を及ぼすことになります。
さて、ここでは実際に市販車に採用されている整流パーツについて簡単に解説してみたいと思います。
ウイング,リアスポイラー
ウイングとは飛行機の羽をひっくり返したような形状で、上下の圧力差によってダウンフォースを得ることを主な目的としたパーツ。
スポイラーは空気抵抗によってより物理的なダウンフォースを得るためのパーツです。
一般にダウンフォースを得るためのパーツと広く認識されているこれらのパーツですが、実は車体後方に流れる空気を整流するという効果もあります。
その効果は前述の通りです。
参考記事→FF車にウイングは不要?最大の恩恵を知ってもそう言えますか?
ディフューザー
先ほどもグランドエフェクトの解説で触れましたが、ディフューザーとは車体底面を流れる空気を素早く後方に逃がしてやるための装置です。
この効果は大きく、あるのとないのとでは高速走行時の車体安定性が驚くほど違います。
フロント底面をフラットにすることができれば効果は倍増し、それだけでプチグランドエフェクトカーと呼んでいいほどのダウンフォースを得ることが可能です。
個人的には純正リアスポイラーを外してGTウイングを取り付けるくらいならディフューザーの採用を検討した方がいいのでは?と思います。
タイヤディフレクター(ストレーキ)
タイヤの前方に取り付けられた板のことです。
フロントタイヤの前方に多く見られます。
これも車体安定性に大きな効果を発揮し、しかも正しく取り付けることができれば、その効果は100km/h未満でも十分に体感することが可能です。
表現が難しいですが、ステアリングの安定感が増すようなイメージと言えば良いでしょうか。
もしストレーキに効果がないなら、各社こんな地味なパーツを格好だけのためにつけているということでしょうか?
そんなわけはありませんよね。
管理人と同じように何世代も前の車に乗っている人にとっては、採用を一考する価値のあるパーツではないでしょうか。
シャークフィン
車のルーフの上に取り付けられた、サメの背びれのようなパーツがシャークフィンです。
シャークフィンという呼称は主にBMWが用いているようですが。
これは空気を整流させるというより、あえて空気抵抗により直進安定性などを得る目的で取り付けられています。
具体的には、リアがスライドしようとしたときにシャークフィンが空気抵抗となり、スライドを抑制するわけです。
一見格好だけかと思いきや、ちゃんとした目的があるのに驚きですよね。
パゴダルーフ
たまにルーフが波打ったような形状をしている車がありますよね。
前から見ると翼を広げたカモメのように見えるその形状は、実は空気抵抗を軽減する効果があると言われています。
かの有名なトヨタ2000GTにも採用されており、フラットな形状より剛性を高める効果もあるのだそうです。
後付けするのはちょっと無理ですが・・・。
そういえばウイングも似たように波打っている形状のものが多いような。
本当にエアロダイナミクスは奥が深いですよね。
まとめ
実はダウンフォースの恩恵が少ない速度域でも、整流効果に関しては燃費面などで大きな効果が得られることが多いです。
昨今燃費性能の重要性が見直されたこともあり、整流効果に関する研究は盛んに行われています。
古い車にもその技術を応用することで、ライバルと差をつけることが可能な点も面白いですよね。
実際にフロント下部をフラットにしたり、タイヤディフレクター(ストレーキ)を取り付けるといったカスタムは割とお手軽にDIYすることが可能で、コストの割に効果が大きいのでオススメです。
ただし高速になればなるほどマシン下部に大きな負圧が生じる可能性がありますので、パネル等を取り付けて整流させる場合は脱落しないように念入りに取り付けましょう。
終わり。