- 「シフトダウンをするとガクっとショックがあり、乗り心地が悪い」
- 「素早くシフトダウンすることができない」
- 「無理にシフトダウンしたらタイヤが滑って怖い思いをした」
MT車に乗っていてこのように感じたことはありませんか?
実はMT車の運転には「ヒールアンドトウ(ヒール&トウ)」と呼ばれる、素早くスムーズにシフトダウンする方法があります。
今回はそんなヒールアンドトウについて、その必要性や原理についてまとめてみました。
ヒールアンドトウとは?
ヒールアンドトウとは、ブレーキを踏みながら回転数をコントロールし、スムーズにシフトダウンするためのテクニックです。
ざっくり言うと、右足のつま先(トウ)でブレーキを踏み、シフトダウンの瞬間につま先の踏力を維持したまま、右足のかかと(ヒール)でアクセルをあおり、回転するを上げて下のギアにつなぎます。
この操作部位から「ヒールアンドトウ」と呼ばれています。
ヒールアンドトー、ヒールアンドトゥという表記も一般的です(声に出すときはトー)。
かつてはGoogleにおいて「ヒールアンドトゥ」の方が記事がヒットしやすかったため、当サイトもヒールアンドトゥで統一表記しておりましたが、今では「ヒールアンドトウ」の方がヒット数が多く、かつ表記のブレも拾いやすくなったため、現在はヒールアンドトウで統一しております。
人によってはかかとの代わりに右足外側の側面を使うこともありますが、同じようにヒールアンドトウと呼びます。
スポーツ走行におけるヒールアンドトウの必要性
まずは「スポーツ走行をする上での必要性」を考えてみます。
街乗りにおける必要性については後述します。
グラフ1.エンジン回転数と車速
さて、管理人の愛車180SXを例に見ていきましょう。
グラフ1は180SXの2速と3速のエンジン回転数と車速をグラフ化したもので、上のラインが2速、下のラインが3速です。
さて、3速から2速へのシフトダウンを考えてみましょう。
※単純に考えるため、シフト操作中の速度および回転数の低下は無視します。
車速が100km/h、3速のときのエンジンの回転数は4,500rpmです。
シフトダウンをしようとクラッチを切っても、その瞬間は同じく車速は100km/h、エンジンは4,500rpmで回転したままですね。
ここで2速につないでみるとどうなるでしょうか。
2速では車速100km/hのときに回転数が6,500rpm必要でした。
ところが、実際は4,500rpmしかないわけです。
2,000rpm足りませんよね。
「この2,000rpmを”クラッチを切っている間にアクセルをあおる”ことで補ってやる。」
こうすることで、タイヤ側とエンジン側の回転差が消え、ショックのないスムーズなシフトダウンが可能になります。
実際のシフトダウンはブレーキ中に行うことが多く、ブレーキ操作も同時に行います。
これがヒールアンドトウの考え方です。
ではもう少し具体的に、その必要性を見ていきましょう。
1.エンジンブレーキによる減速の強化
ヒールアンドトウによって適切にシフトダウンができれば、一つ下のギアのエンジンブレーキを使用できるためスムーズで素早い減速が可能です。
しかし近年はブレーキの性能が格段に上がっており、エンジンブレーキによる減速効果はごくごく限定的なものだという見方もあります。
実際、シフトダウンをするとクラッチを切ることによってコンマ数秒ではありますがエンジンブレーキが全くない状態が生まれますので、わからなくもない話です。
2.素早く加速に移るための準備
いくらブレーキの性能が格段に向上しても、減速中のシフトダウンをやめるわけにはいきません。
なぜなら、シフトダウンの最大の恩恵は減速への影響ではなく、その後の加速への影響にあるからです。
仮にブレーキによる減速を終えたとき、一番高いギアに入っていたらどうなるでしょうか。
車速と共に回転数も落ちていますから、高いギアでは十分な加速力を得ることができませんね。
これは停止状態からいきなり3速で発進するのが困難なのと似ています。
ここで十分な加速力を得るために、やはりあらかじめシフトダウンしておく必要があるわけです。
また、普段の運転でも、高いギアやニュートラルの状態でカーブを曲がるとロール(内側が浮くような傾き)が大きく感じられたり、挙動が不安定になりやすいと感じたことはありませんか?
実は、特にコーナリング中は何らかの力(加減速)が加わっている方が車体が安定しやすいのです。
ブレーキによる減速を終えてコーナーを旋回するとき、エンジンブレーキが効いているのと効いていないのとでは車体の安定感が違います。
そういった意味でも早い段階でシフトダウンをしておく必要があります。
厳密に言えばこれらは「ヒールアンドトウじゃないと得られないメリット」というわけではありません。
しかし、ヒールアンドトウによって“スムーズな減速を邪魔せずにシフトダウン”することが可能となるわけです。
3.車や搭乗者への負担の軽減
ヒールアンドトウをせずに急にシフトダウンをした場合、タイヤの回転数(スピード)に対してエンジンの回転数が大きく不足してしまうため、クラッチを繋いだ瞬間に急激にエンジンブレーキがかかることになります。
その結果、ドライバーや同乗者は慣性の影響で前のめりになり、乗り心地の悪さを感じることでしょう。
最悪、タイヤのグリップが不足して駆動輪がロックしてしまうこともあります。
これは「シフトロック」と呼ばれる現象で、実はドリフト走行をする際に「きっかけ作り」のためにテクニックとして使用されることもあります(いわゆるクラッチ蹴りもこの応用)。
特に高速走行中はギアごとの回転差が大きくなるため、更にシフトロックの危険性が高まり、負担を軽減できるできない以前に、危険回避のためにもヒールアンドトウが必要になるのです。
ヒールアンドトウを取得していない人がこの衝撃を抑えようとすると、半クラッチ状態でクラッチに回転差を吸収させるしかありません。
教習所ではそうするように習うのですが、特にスポーツ色の強い車やクラッチでこれを繰り返すと、すぐにパーツが消耗してしまいますし、挙動も安定しにくく、何より変速に時間がかかるのでタイムにも影響します。
この辺りは別記事でも触れています↓
街乗りにおけるヒールアンドトウ
車好き同士がヒールアンドトウについて語ると、高確率でお題に上がるのが街乗りでのヒールアンドトウの必要性です。
管理人の個人的な考えを述べれば、「やっても構わないが必要ではない」と思います。
ここまで読んでくださった方ならすでにお分かりかと思いますが、ヒールアンドトウはスポーツ走行専用のテクニックではなく、先にあげたヒールアンドトウのメリットは上手に実践すれば街中を走る上でも役に立ちます。
しかし必要ではないのです。
先ほどのスポーツ走行における必要性と照らし合わせて、街乗りにおけるヒールアンドトウの効果について見ていきましょう。
エンジンブレーキによる減速の強化について
そもそも街乗りではエンジンブレーキの必要な場面があまりありません。
なぜでしょうか。
先にも述べたように、ブレーキ性能の進化が大きな理由です。
今のブレーキは昔と比べると格段に進歩しており、仮に緊急時にクラッチを切ってしまっても、フットブレーキだけで十分な制動力を得ることができます。
(もちろん厳密にはエンジンブレーキ併用の方が止まりやすいはずですから、急ブレーキの際はクラッチは踏まない方が好ましいです。)
更に、昨今ではABSの性能も上がっており、誰でも最大限の制動力を簡単に得ることが可能になったと言えます。
少なくとも「ヒールアンドトウをしなかったせいで危険に陥る」なんてケースはほぼないでしょう。
素早く加速に移るための準備について
街中ではそこまで素早く加速する必要がありません。
しっかりと減速してからクラッチを切り、停止していれば1速から、動いていれば2速以上の適切なギアから半クラッチを使って再加速を試みればいいだけです。
このように回転数をアイドリング状態まで落とせば、あとは通常の発車と同じ感覚で再スタートできます。
この辺りの操作は教習所でも習いますね。
車や搭乗者への負担の軽減について
これに関しては、そもそもシフトダウンをしなければショックが生じることもないのですから、深く考える必要もありませんね。
個人的には街乗りではヒールアンドトウどころかシフトダウンが”必要”なシーンも実はあまり多くないと考えています。
仮にシフトダウンをしたとしても、機械や電子制御の発達のおかげで、街乗りのスピード域(低回転域)においては回転差もわずかであり、これを合わせるようなシビアな操作は全くと言っていいほど求められません。
それこそ教習所で習った通り、半クラッチで十分に吸収できるレベルです。
実は低回転域のわずかな回転差を正確に合わせるのはかなり難しく、高回転域を使用して走っている方が楽に回転数を合わせられると感じるほど。
これは高回転域の方がギアごとの回転数差が大きくなり、操作に余裕が生まれると同時に“ギアごとの違い”をイメージしやすいからだと思います(実際に高回転域を使って走行してもらえばすぐに感覚として納得できるはず)。
ヒールアンドトウを失敗するリスク
ヒールアンドトウの操作は慣れないうちは複雑に感じるでしょう。
その分、操作を間違えるリスクがあります。
例えば、アクセルをあおりすぎればエンジンとタイヤに逆方向の回転差が生じ、車が急加速してしまう可能性があります(もちろんブレーキを一定の踏力で踏めていれば少なくとも急激な加速はしませんが、これがまた難しい)。
そうなっては逆効果ですから、こと「止まる」という点においては車のブレーキ性能に頼ってしまっても問題ないと割り切って考えましょう。
ヒールアンドトウを使うとエコ?
たまにヒールアンドトウ自体がエコ運転のためになるという意見を目にしますが、管理人は半分正解で半分間違いだと考えています。
確かにヒールアンドトウを使ってエンジンブレーキを利用すれば、燃料の消費を抑えることができます。
しかし、ヒールアンドトウにはエンジンをあおる行為(ブリッピング)が欠かせません。
うまい人はシチュエーション次第でブリッピング分を補って燃費を向上させることも可能ですが、慣れないうちは多めにあおってしまったり、逆に足りずに2回あおったりと、逆効果な可能性もあります。
どうしてもエコ運転のためにシフトダウンしたい場合は、早めの減速を心掛け、ブレーキを併用しないシフトダウンを使った方が良いでしょう。
この「ブレーキを使わないシフトダウン」はヒールアンドトウの練習方法にも最適で、以下の記事で詳しく紹介しています。
まとめ│ヒールアンドトウはシフトダウン後の加速に備えるテクニック
ヒールアンドトウがどんなものか、ざっくりでもイメージしていただけましたか?
ヒールアンドトウを行うことでシフトダウン操作をスムーズなものとし、続く加速に備えることができます。
速く走るため、素早いシフトダウンのためには間違いなく必須ですから、スポーツ走行に興味があればまず最初にこれをマスターしてしまいましょう。
無理なシフトダウンによるシフトロックの危険性もなくなり、安全性も向上するはずです。
たまにコテコテの改造車に乗っておきながらヒールアンドトウができないという人に出会います。
まぁ誰でも最初はそうなんですが、せめて「回転数を合わせる」という概念くらいは知っておきましょう。
「なんちゃって走り屋」の烙印を押されないよう、車に見合った知識、テクニックを身に付けたいですね。
さて、次回はいよいよ具体的な実践方法について説明します。
よろしければ合わせて目を通していってください。