車の改造で絶大な効果を発揮するものの一つに「軽量化」があります。
軽量化をすることによって「走りが良くなる」というのは漠然と知っている人も多いと思いますが、なぜ走りが良くなるのかわかりますか?
答えはシンプルですが、これがわかると更に効率的な軽量化が見えてきます。
でも、そもそも軽量化って“やるべき”なのでしょうか。
というわけで、今回は軽量化のメリット・デメリットを簡単にまとめてみたいと思います。
車を軽量化するとどんなメリットが得られるの?
軽量化のメリットは「車に働く慣性の影響が小さくなること」。これがすべてです。
慣性とは、簡単に言えば動いている物体が動き続けようとし、また止まっている物体が止まり続けようとする性質のこと。
例えば急加速の際に身体がシートに押し付けられるのは、身体がその“位置”に止まり続けようとする力が働いているからです。
電車が発車する際、中に立っている人がバランスを崩すことがありますが、これも同じですね。
逆にブレーキを踏んだ際に身体が前に放り出されるように感じるのは、身体が動き続けようとしているから。
俗に言う“惰性”ってやつですね。
この慣性(力)の大きさには、物体の質量(車重)が密接に関係しています。
一言で言えば、「重い方が強い慣性力が働く」のです。
力学の超基礎的な公式に「F=ma」というものがあります。
“運動方程式”と呼ばれるこの公式に車の加減速をあてはめると、Fは車にかかる力(エンジンの力やブレーキによる減速力)、mは車重、aは加速度となります。
これによると、車にかかる力の大きさと車重が比例関係にあるため、車重が小さくなれば加速のために必要な力は小さくなり、同じように減速(マイナス方向の加速)のために必要な力も小さくなるということがわかります。
つまり、エンジンが頑張らなくて済むため燃費は向上しますし、ブレーキの消耗も緩やかになるということです。
また視点を変えれば、同じ馬力・同じブレーキの車であれば、軽い方が加速が鋭く、減速も短時間で済むということでもあります。
良いことづくめ。
次に遠心力の公式を見てみましょう。
「F=mv^2/r」(^2は二乗を表す)
車がコーナーを旋回するシーンに当てはめると、Fは車にかかる遠心力、mは車重、vはコーナリング速度、rはコーナーの半径です。
これまた遠心力の大きさと車重が比例関係にあるため、車重が小さければ遠心力は小さくなるということがわかります。
遠心力が小さくなれば、タイヤにかかる負担が減って消耗を軽減できますね。
その分、タイヤのグリップに余裕が生まれるため、より高い速度でコーナリングすることが可能となります。
余談ですが、上記の式から遠心力とコーナー半径は反比例の関係にあることもわかりますね。
つまり、コーナーの半径が大きくなれば遠心力が小さくなるということ。
これがアウトインアウトのライン取りによってコーナリング速度が向上する理由です。
軽量化のデメリット・注意点
先述の通り軽量化の恩恵はシンプルかつ絶大ですが、むやみに軽量化すれば良いというものではありません。
実は軽量化の方法次第では注意が必要なんです。
気を付けたいのは次のような軽量化↓
- 剛性が低下する軽量化
- 前後重量配分が崩れる軽量化
- 特性が激変する軽量化
- コスパの悪い軽量化
- 乗り心地が悪くなる軽量化
- 快適性がなくなる軽量化
- 静粛性がなくなる軽量化
乗り心地や快適性、静粛性などは、スポーツ性能の向上と天秤にかけて自分が求めるものを取捨選択すればOKです。
最も注意したいのは「特性が激変する軽量化」で、その代表例として挙げられるのは「駆動系の軽量化」(詳しくは後述)。
この他にも重量が低下した分「タイヤの接地圧が低下する」というデメリットもありますが、これに関しては「ダウンフォース」を意識することで、ある程度改善が可能。
ちなみに、ダウンフォースには空気抵抗を用いた下向きの力以外にも“ベンチュリー効果”を利用したもの(グランドエフェクトなど)があります。
しかし、そもそも接地圧が低下することよりも先述の軽量化によるメリットの方が圧倒的に大きいので、気にしすぎる必要はありません。
ただし、背の高い車は横風の影響を受けやすく、これはなかなか解消できないので注意が必要です。
また、最近の高級車にはボディにアルミ合金が用いられていることも多くなってきましたが、アルミ合金にしろカーボンにしろFRPにしろ、鉄板と違って板金修理ができないというデメリットがある点には注意が必要です。
わかりやすく言うと、「叩いて直すことができない」んですよね。
そのため、“へこみ”や“割れ”に対しては基本的には交換で対処することとなり、修理費用がかさむことも珍しくありません。
特にFRPは厚い鉄板よりも確実に強度が落ちますから、安全面でも慎重になった方が良いと言えます。
デメリットを最小限に抑える「効率的な軽量化」
単純な加減速や燃費への影響ならまだしも、スポーツ性能を向上させようとした場合は「効率的な軽量化」を意識したいところです。
特に効果的な軽量化は次の3つ。
- バネ下の軽量化
- 前後重量配分を意識した軽量化
- 駆動系の軽量化
それぞれ詳しく見ていきましょう↓
バネ下の軽量化は影響“大”
車の軽量化で最も効果が出やすいのが「バネ下の軽量化」と言われています。
バネ下が軽ければサスペンションが動きやすくなり、サスペンションとダンパーがフルに仕事をできるようになるため、スポーツ性能が向上、更には乗り心地も良くなる傾向にあります(ただし軽量化の手段によっては副次的に乗り味が落ちる可能性はあるので注意)。
また、バネ下が軽くなると操舵の抵抗も低減し、よりクイックなハンドリングが可能になります。
昨今の市販車は軽量なアルミホイールが標準装備されることも増えてきましたが、一昔前の車は軽量アルミホイールに交換するだけで劇的に乗り味が変わることも少なくありません。
前後重量配分(前後重量バランス)を意識する
軽量化をしたのに思ったほどの効果を得られないことがあります。
ポイントとなるのが「前後重量バランス」。
前後重量バランスとは車のコーナリング性能の高さを示す指標の一つで、前輪と後輪がそれぞれ受け持つ車重の割り合いを表したものです。
一般的にこの配分が「50:50」に近いほど運動性能が高く、スポーツ走行に向いていると評価されます(実際は駆動方式や出力特性等によって必ずしもそうとは限らないようですが)。
例えば、BMWが50:50の前後重量配分にこだわった車づくりをしていることは有名で、実際に純粋なスポーツモデルではない車種でも走りの質は高いです。
さて、軽量化をしたのに思ったほどの効果が得られなかった場合、この前後重量バランスが崩れる方向で軽量化してしまった可能性があります。
例えば「日産 180SX」の場合で考えてみましょう。
180SXはS13シルビアの姉妹車と言われていますが、少しスピードを出してコーナーに進入すると、乗り味がかなり違うことがわかります。
理由は二つあって、一つは180SXがハッチバックゆえに開口部が広く、剛性が低いため。
もう一つは、剛性補強と大きなリアガラスによって車重を増やしつつも、これが結果的に前後重量バランスの向上に作用しているため。
特にリアにストラットタワーバーを取りつけた場合は、軽いS13よりもキビキビコーナリングするようになります(とはいえ50kgほどの重量差がありますから純粋に速いかどうかはシーンによりますが)。
このため、「180SXはリアが重いから」と言ってリアばかりを軽量化すると、せっかくの前後重量バランスが崩れ、軽量化の割に速くならないということが起こり得るわけです。
逆にフロントを軽量化すれば前後重量バランスは更に改善方向となりますので、ただ軽くする以上の運動性能の向上が期待できます。
例えばフロントをS13に換装したシルエイティの場合、リトラクタブルヘッドライトがなくなった分フロントが軽くなり、軽量化+前後重量バランスの改善という2つのメリットが期待できます。
リトラクタブルヘッドライトは180SXのアイデンティティの一つですが、フロントをぶつけてしまった場合は見た目以上にシルエイティを検討する価値があると言えます。まぁかつてほど車両もパーツも豊富ではありませんが・・・。
ちなみに管理人の180SXはボンネットこそ外観の変化が怖くてノーマルでしたが、フェンダーは擦ったのを機にFRP(繊維強化プラスチック)製に交換していました。
逆にリアは多少重量が増えてもそこまで大きな影響はないという見方もできて、180SXのリアの剛性不足もロールバーの溶接やリアクロスバー等をふんだんに盛り込むことである程度の解消が見込めます。
車体中央部分(主に室内前方)の軽量化は前後重量バランスへの影響が比較的少なく済むため、まず積極的に取り組みたいところです。
駆動系の軽量化は一長一短。しかし効果は大きい
駆動系の軽量化は、特に高回転域における効果が大きく、ほとんどの場合スポーツ性能の向上につながります。
]例えば比較的手を出しやすいのがフライホイールの軽量化で、軽量フライホイールへ交換すると加速のレスポンス良くなったりエンジンブレーキの効きが強くなったりといった効果が見込めます。
しかし、エンジンブレーキの効きが強くなるということはそれだけアクセルオフ(燃料カット)の状態で進める距離が短くなるということでもあり、燃費が悪化してしまうというデメリットもあります。
また、フライホイールにはいびつなエンジン出力を慣性を使って滑らかな円運動に置き換えるという役割もあります。
そのため、特にロータリーエンジン搭載車においてフライホイールを軽量化すると、エンジンの回転のムラが解消できなくなり、アイドリングが安定しなくなったり低回転域のトルクが激減したりします。
フライホイールはほんの一例ですが、このように駆動系の軽量化は高回転域を多用するスポーツ性能の向上には劇的な効果が見込めるものの街乗りにおけるデメリットがハンパないので注意が必要です。
まとめ│軽量化の方法には要注意。おすすめの軽量化メニューは?
先述の物理学の公式が表す通り、純粋な軽量化は運動性能の向上に絶大な効果があります。
しかし、その手段・方法によってはデメリットが生じるリスクがある点に注意が必要です。
また、例えば後部座席を取り払った場合は「定員」が変化するなど、一部の軽量化は車体構造変更届けを提出する必要が生じる場合もあります。
もし一から軽量化を実践するのであれば、ボンネットやフェンダー、バンパー等のフロント周りの軽量化はもちろん効果的でおすすめなのですが、一番おすすめしたいのはシートの交換。
レカロやスパルコ、ブリッド等のフルバケットシートに交換すると、前後重量配分への影響を最小限に抑えながら、車種や製品によっては左右合わせて10kg近い軽量が可能なことも・・・。
同時に身体のホールド性が高くなってスポーツ走行しやすくなるので一石二鳥なんですよね。
一石二鳥と言えば、ドレスアップも兼ねて軽量ホイールに交換するのも手。
ただしインチアップすると逆に重くなる可能性もあるので注意しましょう。
他にもスポイラーリップやフォグランプ、フロアマットにリアワイパー、スペアタイヤといった、「走りに不要なパーツ」を降ろす(取り外す)というのも十分に効果的。
是非“効率的な軽量化”を意識して、軽快な運転を楽しんでください♪
コメント