もはや一部の車好きのための車や商業車、特殊車両以外ではあまり見かけることのないMT車ですが、今でも欧州では一定の支持があるようですね。
さて、AT車とMT車が比較されることはよくありますが、昨今の技術の進化により、これまで盛んに語られていたMT車のメリットに暗雲が立ち込めてきているように感じます。
また過剰なMT車の安全神話を耳にすることもありますが、これらはどこまで本当なのでしょうか。
間違ったMT車のメリット
実は、管理人は「敢えてMT車を選ぶメリットはほんのわずかしかない」と考えています。
これまでMT車のメリットとして語られてきたことが、ATやCVTの技術向上によって”そうとも言い切れなくなってきた”からです。
ここでは、これまで多く語られてきた「MT車のメリット」について、現状を踏まえて見直してみたいと思います。
「MT車は速く走れる」はウソ!?
これは条件次第ではありますが、最新の車においては必ずしもMT車の方がスポーツ走行向きとは言い切れません。
確かにより複雑なステージではMT車の方がAT車より速く走れる可能性はありますが、これは「ドライバーが思い描いた通りのタイミングでシフトチェンジできる」ということが影響しています。
「AT車のシフトチェンジのタイミングに合わせた走り方」をするより、「自分の走り方に合ったタイミングでシフトチェンジをする」方が速い、という理屈です。
確かに一理ありますが、近年の電子制御技術の進歩により、単純なシフトチェンジに要する時間についてはすでにAT車の方が優位に立っています。
さらに、エンジンが非力であればCVTを搭載することも可能ですが、相手がCVTとなればMTにはほぼ勝ち目はありません。
CVTは90年代にウィリアムズがF1マシンに搭載してテストしたところ、当時1周1秒以上のアドバンテージを生み出すことができたと言われています。
こちらは当時のテストの様子。
結局「ドライバーが変速操作を行う」というレギュレーションがあるため実戦投入はされませんでしたが、その速さが実証された一幕です。
もう20年以上も前のことで、この後ATもCVTもそれぞれ進化しているとは思いますが、この優位性はなかなか揺るぎません。
CVTは”無段変速機”と呼ばれ、「エンジンの”一番おいしいところ”を使い続けることができる」ということが最大のメリットです(その分エンジンの負担は大きく、市販車においては大排気量車に搭載されることはほとんどない)。
動画の音を聞けば、一定の回転数を維持しながら走っていることがわかりますね。
このため、加速性能においてはマニュアルトランスミッションがCVTに勝つことはほぼ不可能なのです(変速が必要ないシーンにおいては、より伝達効率の優れるMT車が勝る場合もある)。
この辺りは最初からフルにトルクを発揮するモーターカーが加速に優れるのと似ていますね。
MT車の真のメリットは”速く走る”という直接的なことではなく、より”思い通りに操作することができる”という点にあり、またそれにより生まれるスポーツ性も醍醐味です。
もちろんいつなんどきもMT車が劣るというわけではなく、ステージとリンクして結果的にAT車より速く走れるといったことも十分にあり得ます。
「MT車は燃費が良い」はウソ!?
確かに以前はMT車の方がAT車よりも燃費が良いのは常識でした。
実際に過去に販売された車のカタログを見ても、やはりMT車の方が燃費が良いことがほとんどです。
これは一般的なトルクコンバータ式のAT車の方が、より機械的に動力を伝達するMT車と比べて「動力の伝達ロスが大きいこと」と、「パーツ重量が大きいこと」、また「MT車の方がドライバーが適切な回転数を維持しやすいこと」も影響しています。
しかし、昨今の“AT車の多段化”や“CVTの小型化”により、必ずしもMT車の方が燃費が良いとは言えなくなってきています。
例えば先日北米で発表されたばかりの新型のアコードは、FFセダン車では世界初の10速ATを採用しています。
現在もMT車は5~6速が一般的ですから、よりエンジンのおいしいところを使えるであろうことは容易に想像できますね。
たしかに同じ段数のMT車とAT車であれば、ドライバーの腕次第ではMT車でより高燃費を叩き出すことは可能かもしれません。
しかし、技術の進歩はもはやそんなレベルではないということですね。
10段のMTなんて普通の人には操作し切れませんし。
もちろん現時点では全てのAT車がMT車より燃費に優れるわけではありませんが、数年のうちに燃費面でのMT車の優位性は“完全に”なくなるのではないでしょうか。
「MT車なら”ながら運転”はなくなる」はウソ!?
「MT車なら両手両足に役割があるためスマホをいじることができない」のような意見を耳にすることがありますが、これは間違いです。
その最大の理由は「常に左手がシフトレバーを操作するわけではないから」。
いくらMT車でも常にシフトチェンジをし続ける必要はありませんし、極端な話、街乗りであれば発進から停止まで2速や3速のみで運転できないこともありません(うるさいし非効率的ですが)。
そこまでいかなくても、少しシフトチェンジのタイミングを我慢すれば、左手で何かを操作するなんて造作もないことです。
特に減速時は顕著で、わざわざシフトダウンをしなくてもブレーキ操作だけで止まれる点はAT車と同じです。
MT車で左手がフリーになる時間は、MT車に乗り慣れていない人が思うよりも圧倒的に多いと言えます。
そうなれば、ながら運転のしやすさ(?)はAT車の場合となんら変わりはありませんよね。
仮に「MT車に乗っているけど本当に常に左手が忙しいんだ!」と言う人がいれば、一度”意識して左手をハンドルに戻す”ということを実践してみましょう。
敢えて言い切りますが、左手がいつまでもハンドルに戻らず常に忙しくしているような運転は、片手でスマホを持っている運転と大差なく危険です。
先を予測した運転ができれば、そこまであわただしくシフトチェンジをする必要はないはずですからね。
更に、最新の車は踏み間違いも防止してくれますし、自動ブレーキや車線維持機能なども搭載されることが当たり前になりつつあります。
そうなれば、今後安全面でのMT車ゆえの優位性はどんどん低下すると考えるのが自然でしょう。
まとめ│MT車を選ぶ真のメリットとは・・・?
MT車よりAT車の方が「速く」、「燃費が良く」、そしてMT車に「安全面での優位性もない」としたら、MT車を選ぶメリットは一体何なのでしょうか。
「子供が誤って操作できない」だとか、「クリープ現象がない」とか、一長一短な要素はいろいろとありますが、ハッキリ言えることは一つ。
それは”MT車の方が運転が楽しいから”。
MT車は今や趣味の乗り物です。
自分でシフトチェンジをすることで、より思い通りに車を操作することができたり、それによりスポーツ性が生まれたり、爽快感を感じることができます。
確かにAT車、CVT車の方が速いステージも多いでしょう。
しかし、相手がロードスターなのにGT-Rで全力勝負を挑むことがありますか?
該当する車種があるかはさておき、MT車だらけのワンメイクレースに、より優れるCVT車で出場して勝ったところで、「ふーん」って感じですよね(笑
MT車ばかり乗る人間が敢えてこんな記事を書きましたが、決して“MT下げ”をしたいわけではありません。
様々な駆動方式が存在するように、速さ以上の魅力がMT車にはあるのです♪
代車で軽のCVT車に何度か乗りましたが、加速が致命的にもっさりしていてストレスを感じましたが…。
普通車のCVTは速いんですか…ね?
CVTは完全にコンピュータ制御なので、そこがエコ寄りだったりすると話は別ですが、原理的にはMTよりCVTの方が加速に優れるはずです。
ただ、問題は何と何を比較するかで、CVT搭載車なら必ずしも速いとは言い切れません。
というのも、実際はトランスミッションよりエンジン出力やその出し方の方が大きく影響するからです。
例えばN-BOXは燃費を稼ぐためにエコモードがデフォルト設定になっていますが、エコモードを切るとより高回転まで回るようになり、加速が良くなります。
また、同じN-BOXでもターボあり、なしでは加速は全く異なります。
余談ですが、代車においては普段から控えめに扱われ、エンジン内部にカーボンが溜まって吹けが悪くなっている・・・なんて可能性も考えられますね。