前回スタッドレスタイヤや各種チェーンのメリット・デメリットについてまとめましたが、今回は駆動方式による悪路走破性の違い、また雪道や凍結路を走行する際の注意点についてまとめてみたいと思います。
ポイントは4WD神話がささやかれる現代において、「悪路走行において4WDは必須なの?」かということ。
一般的に、雪道や凍結路での走行性能は4WDが最も優れ、次いでFF、FRはやや危険と言われています。
しかし、実際どの程度の差があるのでしょうか。
そもそもこの順位は正しいのでしょうか。
ここでは各駆動方式における悪路走行性能と注意点をまとめてみたいと思います。
記事中の“悪路”とは、雪道や凍結路のような「スリッピーな路面状況」を指すものだと考えてください(でこぼこ道などはまた別のお話)。
雪道や凍結路の走行 4WDの場合
4WDはフォー・ホイール・ドライブ(4 Wheel Drive)の略で、AWD(All Wheel Drive)や4×4(フォーバイフォー)と呼ばれることもあります。
つまり“4つのタイヤが全て駆動輪”ということです。
先に述べた通り、「4WDは雪道に強い」とよく言われますよね。
これは4つのタイヤがしっかりと地面を蹴り出す役目を担っているからです。
しかし、実は4WDであっても悪路での“発進性能”、“直進安定性”および“登坂性能”が高いだけで、いわゆる“曲がる”、“止まる”に関しては他の駆動方式と比べてそこまで大きな優位性を持ってはいません。
逆に一般的な4WD車はその構造の複雑さ、パーツの多さから車重が大きいことが多く、例えば同一車種の2WDモデルと比べて止まりにくい恐れすらあります。
また注意したいのが、いくら4WDでもノーマルタイヤで悪路を走行するのは危険だということです。
何年か前に静岡県にあるYetiというスキー場の近くで、進めなくなって放置された車を多数見かけたことがありますが、意外と4WDの車が多いことに驚いた記憶があります。
普段それほど大雪の降らない地域なので、スタッドレスタイヤやチェーンの有用性、雪道に対する認識があまりなかったのかもしれませんね。
確かに4WDは雪道で高い安定性を誇りますが、過信は禁物ということです。
雪道や凍結路の走行 FRの場合
FRはフロントエンジン・リアドライブ(Front-engine Rear-drive)の略で、いわゆる“後輪駆動”です。
4WDとは逆に直進性が悪いため「雪道では危険」と言われるFRですが、欧州では前後重量配分に優れるBMWの評価が高く、「雪道におけるFRは扱いやすい」という意見もあると聞きます。
管理人も同意見で、雪道におけるFRのデメリットはアクセルオンでテールスライドが起こりやすいことくらいではないかと感じます。
コーナリング中にアクセルを踏み込めばリアがブレイクしてスピンモーションに入ってしまうかもしれませんが、一般道におけるいつも通りの運転をこころがけていれば、そんな心配はほぼ無用なはずです。
チェーンを装着していれば、テールスライドの心配は更に大幅に軽減されます。
逆に後輪が滑り出した後のコントロール性は、一般的にFRより悪路に強いと言われるFFをはるかにしのぎます。
ドリフトと言えばFRというくらいコントロール性の高い駆動方式ですから、一定以上のドライビングテクニックがあれば、むしろテールスライドを楽しむくらいの余裕を感じられるかもしれません。
雪道や凍結路の走行 FFの場合
FFはフロントエンジン・フロントドライブ(Front-engine Front-drive)の略で、こちらは“前輪駆動”です。
FFは一般的には悪路においてFRより安全だと言われていますが、これは駆動輪である前輪に荷重が集中しているため比較的発進に有利という点が挙げられることが主な理由と考えられます。
またFRより直進性に優れ、FRと違ってアクセルオンでリアが滑り出すことがないことも評価される理由でしょう。
しかし、FFはグリップの限界が見極めにくく、一度滑り始めると修正するのが容易ではないため、個人的には最も慎重を要する駆動方式だと感じています。
特にノーマルタイヤ+チェーンの組み合わせにおいては、リアはほぼグリップせずに引きずられているようなもので、ものすごく不安定な状態です。
下り坂における急ブレーキや旋回中の遠心力などでいざリアが滑り出すと、その後の修正は困難を極めます。
スキーやスノーボードに出かける際などは後部座席に人を乗せたり大量に荷物を積むことも多いでしょうが、リアの荷重が増えれば増えるほど慣性も増大し、テールスライドのリスクは増大していきます。
とは言っても基本的にはスピードを出しすぎない限りは先述の通り4WDと大差ありませんし、むやみに怖がる必要はありません。
ちなみにFFはもともと上り坂でトラクションがかかりにくい駆動方式なので、坂道においては発進性能もFRに劣る可能性があります。
しかし、ゆっくりと発進する(徐々にトラクションをかける)ことさえ心掛ければ、多くの場合スタッドレスタイヤだけでなんとかなるはずです。
悪路走行時に気を付けたいこと
さて、駆動方式による違いをいろいろと見てきましたが、どの駆動方式にも共通して言えることがあります。
それは「悪路を走行する際は丁寧な運転が求められる」ということです。
具体的に気を付けたいのは「急加速・急ブレーキ・急ハンドルを避ける」ということ。
これができないと、いくらスタッドレスタイヤや各種チェーンを装着していても危険な目に合うかもしれません。
“急”と名の付く運転はダメ、というのは悪路に限ったことではないのですが、路面抵抗が小さい場合は“直ちに命に関わる可能性すらある”のです。
では具体的になぜダメなのか、一つずつ見ていきましょう。
急発進、急加速はダメ!
ドラッグレースのスタート前など、レーシングカーが白煙を黙々とあげながらその場で後輪を空転させているのを見たことがありませんか?
これは「バーンアウト」というテクニックですが、実は一般的な乗用車でも、雪道や凍結路などの滑りやすい路面で急加速を試みることで、同じように駆動輪が空転してしまうのです。
このとき、FFならハンドルが急に軽くなり、グリップが回復した瞬間にハンドルを動かした方向に飛んで行く恐れがありますし、FRなら空転した瞬間からスピンが始まりかねません。
また駆動輪が滑らないにしても、急加速によってフロント荷重が抜けると、前輪の接地が弱まり、ハンドルの効きが悪くなる恐れもあります。
これらを防ぐためにも、急発進や急加速は絶対にしてはいけません。
急発進によるホイールスピンを防ぐために(トラクションをかけすぎないために)、MT車なら2速で発進を試みるのも有効です。
またカーブにおいてはアクセルの踏みすぎにより、FFならアンダーステアによって曲がり切れなくなったり、FRならオーバーステアによりスピンしてしまう可能性がありますので、コーナリング中は不必要にアクセルを踏み込まないように気を付けましょう。
急ブレーキ(急減速)はダメ!
急ブレーキを踏んだ場合、タイヤが回転を止めるだけで車は慣性に従い直進してしまう恐れがあります。
いわゆる“ロック”というやつですね。
最近の車はABS(Antilock Brake System)が優秀なのでロック自体起こりにくいかもしれませんが、いざロックしてしまえば後の祭りですし、できればABSに頼らなくて良いような安全な運転を心掛けたいところです。
また雪道では「フットブレーキよりエンジンブレーキを多用する方が安全だ」ということが言われることがあります。
確かにエンジンブレーキの方が緩やかに一定の減速をしてくれるうえ、フットブレーキとの併用もできるので、より安全なことに間違いありませんが、シフトダウン自体が危険を伴う可能性があるということには注意したいですね。
特に変速ショックの大きい古いAT車や、MT車でも回転数を合わせた丁寧なシフトダウンができない場合は、シフトダウンの瞬間に駆動輪がロック(シフトロック)する可能性があります。
こうならないために、あらかじめODをOFFに、または2速ホールドで走行するなど、高いギアを使わないように走るのも一つの方法です(もちろん燃費は悪化しますが)。
急ハンドルはダメ!
急ハンドルも同じくらい危険で、前輪のグリップの限界を超える勢いでハンドルを切ると、タイヤの向きが変わっただけで車はそのまま直進してしまう可能性があります。
ハンドルを切った瞬間にグリップを失わなかったとしても、急激に車の挙動が乱れればそこからコントロール不能となり、スピンモーションに移行する可能性もあります。
これを防ぐには、タイヤをグリップさせながら徐々に向きを変えるしかありません。
スピードが出ているほどリスクは上がりますので、まずは十分に減速し、ゆとりのある速度で走行することを心掛けたいですね。
まとめ│4WDを過信するのは禁物!悪路では普段以上に注意した運転を心がけよう!
今回一番言いたかったのは、「4WDなら雪道、凍結路でも無敵ってわけじゃないよ!」ってことです(笑
先述の通り、4WDを過信するあまりノーマルタイヤで身動きを取れなくなってしまった車を何台も見たことがあります。
冬の道路を安全に走るためにはスタッドレスまたはチェーンが必須だということもお忘れなく。
またFFやFRじゃ雪道を走れないかと言うと、決してそんなことはありません(もちろんスタッドレス等は必須ですよ)。
雪山などにおいては、やはり発進性能に優れる4WDが一歩リードしていることに間違いありませんが、少なくとも街中を走る分にはどの駆動方式でも大差ないと考えて良いと思います。
特に最近の車はトラクションコントロールや横滑り防止などの電子制御がモリモリですしね(笑
大切なことは、駆動方式に関わらず「急加速・急ブレーキ・急ハンドル」を絶対にしないということ!
そして余裕を持った速度で走ること!
これらを肝に銘じて、是非安全運転を心掛けてください♪