後輪駆動車でスポーツ走行をする場合、コーナーでは繊細なアクセルワークが必要とされます。
なぜなら、考えなしにアクセルを踏み込めば簡単にリアが流れ、”オーバーステア”が生じるからです。
オーバーステアは突き詰めればスリップやスピンの危険性そのものと言えます。
よりクイックに曲がる軽快さと錯覚するかもしれませんが、純粋に速く走るためにはその仕組みを理解した上でオーバーステアの対策を取ることが不可欠です。
漫画やアニメのように車をコーナー内側に向け、派手にドリフトをしながら走行をする。
実はそんな走りが速いステージは極々限られています。
ドリフトとは、いわばオーバーステア状態の車をうまくコントロールしている状態です。
一度オーバーステアが出たらドリフトは良い対処方法かもしれませんが、ここではより純粋な速さを求めるために、オーバーステアを抑制する走りについて考えてみましょう。
オーバーステアとは?
オーバーステアとはコーナリングにおけるステアリング特性のひとつです。
たまに「オーバーステアな特性を持つ車は曲がりやすい」といった話を聞きますが、それは間違いです。
具体的にはハンドルを切った分だけ曲がる特性の「ナチュラルステア」に対し、思い描いていた理想のラインよりも車が内側に切り込んでしまう現象を「オーバーステア」と言います。
要するに”曲がりすぎる現象”だということ。
「曲がりやすい」のではなく、「勝手に曲がってしまう」というやっかいな特性なんです。
車が思っているよりも旋回しようとしたら、もっと言えばスピンしそうに感じたら、それはオーバーステアが生じていると言えます。
逆に思い通りのラインよりも車が外側に膨らんでしまう現象は”アンダーステア”と呼ばれます。
アンダーステアについては別途記事にまとめていますので、そちらをご参照ください。
オーバーステアは特にFR,MR,RRなどの駆動方式、いわゆる後輪駆動車で多く見られる現象です。
じわじわとアウト側へ膨らむアンダーステアと違って急激に車の向きが変わろうとするため、より対処が難しい現象と言えるかもしれません。
そういった意味でも、オーバーステアを抑え込むという考え方は重要になってきます。
ちなみに、アンダーステアやオーバーステアはよほどの悪路でもない限り、公道を制限速度で走行する上ではほとんど実感することは不可能なはずです。
しかし、後輪駆動車で雪道や砂利道を走った場合、アクセルを踏みすぎると簡単にスリップしてしまいますので、いつも以上に注意が必要と言えます。
もし後輪駆動車で悪路を走る機会があるのであれば、スポーツ走行をしなくてもオーバーステアの危険性について意識していた方が良いかもしれません。
オーバーステアの原因と対策
オーバーステアはテールスライドを誘発します。
そして、テールスライドによって更に強いオーバーステアへと変化する場合がほとんどです。
イメージ的には前輪を回転軸とし、後輪がアウト側に滑り出す様子を想像するとわかりやすいでしょうか。
こうなれば車はコーナー内側を向く形となります。
ではなぜ後輪がアウト側に滑ってしまうのでしょうか。
オーバーステアもアンダーステアも、コーナー進入時とコーナー脱出時の二つのパターンに分けて考えることができます。
それぞれのラインは図1のようになります。
図1.進入時のオーバーステアと脱出時のオーバーステア
NSがニュートラルステアによる理想的なライン、
OS-1がコーナー進入時のオーバーステアによるライン、
OS-2がコーナー脱出時のオーバーステアによるラインです。
どちらも車が急激な挙動を示している様子が想像に難くないと思います。
これらは一般的に発生原因が異なるため、対処方法も個別に考える必要があります。
進入時のオーバーステアの原因と対策
進入時のオーバーステアの原因は、ずばりブレーキにあります。
進入時のオーバーステアは後輪駆動車の中でも特にフロントに重量物のあるFR車で生じやすいと言えます。
FR車はフロントにエンジンを搭載しているため、ブレーキをかけるとどうしても前輪にかかる負担が大きくなります。
この状態でインに切れ込むと、リアの荷重不足によるテールスライドが発生し、オーバーステアとなります。
MR車やRR車はブレーキ時に4輪にかかる荷重のバランスがFR車よりも優れていることが多いため、このオーバーステアは生じにくいかもしれません。
また、ハンドルを切ってからブレーキを踏み足すことでも同様のオーバーステアが生じます。
コーナリング中は車全体に遠心力がかかっているため、ハンドルを切ってから強いブレーキをかけると、同じようにリアの荷重が一気に抜けて踏ん張れなくなった後輪が遠心力でアウト側に放り出されます。
これらはいずれもブレーキによって起きるリアの荷重不足が原因という点では共通しています。
これを防ぐためには、適切なブレーキ開始位置を見極め、しっかりと減速をしてからコーナーに進入することが大切です。
これらは「スローインファストアウト」や「クリッピングポイント」を意識することで改善できる可能性があります↓
脱出時のオーバーステアの原因と対策
脱出時のオーバーステアの原因はアクセルワークにあります。
後輪駆動車でコーナー脱出時にアクセルを一気に開けると、テールスライドによるオーバーステアが生じます。
これを防ぐためには、慎重かつ繊細なアクセルワークが必要です。
具体的には車の挙動が乱れないように徐々にアクセルを開け、車がコーナー出口を向いてグリップがあると感じられたらアクセルを踏み込んで一気に加速します。
ポイントは速めにステアリングをニュートラルに戻そうとすることです。
加えて言うなら、一般的にハンドルを切る量が少なければ少ないほど、コーナリング速度と脱出時の速度は高くなります。
タックインによるオーバーステア
FF車や4WD車でも、タックインによってオーバーステアのような挙動を示すことがあります。
タックインとは、FF車や4WD車においてコーナリング中に一瞬アクセルを緩めることで車がコーナー内側を向こうとする現象です。
タックインについては、詳しくはこちらをご参照ください↓
オーバーステアが出てしまったときの対処方法!
軽微なオーバーステアについてはステアリングを戻すだけで十分に対処できますから、ここでは「テールスライドが生じてしまったら」と置き換えても大きな問題はないものとして話を進めます。
対処方法は主に2つ考えられます。
一つ目はテールスライドが生じたらすぐにステアリングを逆方向に切って対処する方法。
このステアリングを旋回方向とは逆方向に切ることをカウンターステア、俗に「カウンターを当てる」と言います。
ただし、カウンターを当てすぎると今度はグリップが回復した瞬間に逆方向にテールスライドが始まります。
これを俗に「おつりをもらう」と言い、更にカウンターを戻すタイミングを誤ると延々と左右にテールスライドを繰り返す「タコ踊り」が始まり、いずれスピンしてしまいます。
カウンターステアでオーバーステアに対処しようと思ったら、必要最小限のカウンターを当てる必要があるということです。
また、カウンターを当てた状態でアクセルを抜くと急激に後輪のグリップが回復してアウト側へ吹っ飛ぶことになるため大変危険なので注意しましょう。
カウンターを当てる場合は、スピンしたら終わりという気持ちで適切にコントロールしなければいけません。
ちなみにカウンターを当てながらアクセルワークで車体の向きをコントロールしてコーナーを抜ける走法が「ドリフト走行」です。
しかしドリフト走行をするためには多少なりとも専用の練習が必要でしょうし、派手な角度(ドリフトアングル)がつくとスピードも大きく落ちます。
車を進めたい方向に車を向けることは必要ですが、それ以上はロスになります。
もう一つの対処方法は、カウンターを当てずにわずかにアクセルを緩める方法です。
これはテールスライドが生じてから即対応する必要がありますが、車速を落として遠心力を緩めることでグリップの回復が狙えます。
ただし、急激にアクセルを戻してエンジンブレーキを効かせたりブレーキを踏んだりすると、リアの荷重が抜けてしまい逆効果になる(リアが余計に滑り出す)ので注意が必要です。
そのため荷重移動の起こりやすい低速コーナーではこの対処方法を使うのは難しいかもしれません。
適切なカウンターステアを身に付けるには経験が不可欠ですので、自信がなければまずはテールスライドを起こさせないことに集中し、テールスライドが生じたら即座にアクセルを緩めてグリップの回復を図りましょう。
まとめ│オーバーステアはコーナー進入時のブレーキ、脱出時のアクセルに注意!
オーバーステアはテールスライドが始まるとあとはずるずると症状が進行していくため、アンダーステアよりも対処が難しい特性と言えます。
上級者になればカウンターを当ててスムーズにコーナリングできるようになりますが、初心者のうちはそもそもオーバーステアを出さないことが大切です。
そのためにはコーナー進入時はブレーキに、脱出時はアクセル操作に集中する必要があります。
具体的には次の2点を心掛けましょう。
- しっかりと減速をしてからコーナーに進入すること。
- 車の挙動が乱れないように徐々にアクセルを開けること。
これらに気を付ければ、不意にオーバーステアが出て対処できなかったということもないはずです。
またオーバーステアはアンダーステアと同様、セッティングで解消することもできます。
一般的には進入時のオーバーステアは荷重が集中するフロントのサスペンションを、脱出時であれば逆にリアのサスペンションをセッティングすれば多少は改善できるはずです。
これについてはまた別の機会にまとめたいと思います。